【オピニオン】アニマルライツとアニマルウェルフェア
私たちveganは、一刻も早く、ヒトでない動物たちをヒトの手から解放することを願っています。しかし、残念ながら現実には、直ちにすべての動物利用を廃止することは困難です。そこで私たちに思い浮かぶ妥協的な策が、アニマルウェルフェア(動物の福祉)の改善を訴えていくことです。つまり、少しでも動物たちの利用を苦痛の少ない形に改善していくことで、人々の関心と倫理観を向上させると共に、動物製品の値段を高めることで、最終的な解放につなげていこうという考えです。しかし、理論家や活動家の間では、この考えをめぐって重要な議論が交わされています。
福祉主義の考え
動物倫理にかかわらず、倫理学には二つの主流の立場があります。一つは功利主義と呼ばれるもので、行為の結果が幸福や喜びの全体の総量に与える影響が、その行為を道徳的に評価する基本的な指標になるという立場です。現代の功利主義の代表的な人物の一人が、著書『動物の解放』で最も良く知られるピーター・シンガーです。
アニマルウェルフェアの推進には、功利主義的な考えが基になっている場合が多く、アニマルウェルフェアを支持する考えは、大きく二つに分けることができます。一つが古典的福祉主義、もう一つは新福祉主義と呼ばれるものです。
古典的福祉主義は、動物の利用を道徳的に許されるものとして承認します。一部の功利主義的な考えによって正当化すれば、例え動物を利用したとしても、彼らの幸福を十分保証する形で行うのならば、それは許されるということです。つまり、Veganismの基本的な理念、「あらゆる形で動物の利用を行わないように努める」とは相いれない立場なので、この立場を支持する人々は、Veganとは異なる考えを持っている人たちといえるでしょう。
それに対して新福祉主義は、最初に述べたように、少しでも動物たちの苦痛を減らしながら段階的に動物の利用を廃止するための手段として、アニマルウェルフェアを推進していく立場です。世界で最も名の知れた動物擁護団体であるPETAも新福祉主義に分類されますし、この立場に共感するveganは日本にも多くいるでしょう。
廃止論の考え
功利主義と並ぶ倫理学のもう一つの主流の立場が、義務論です。動物倫理の文脈で重要になるこの立場の一つの特徴は、功利主義とは異なり、権利という概念を重要視することです。そして、ゲイリー・フランシオンの廃止論に代表されるような義務論的な動物擁護の立場に立てば、例え動物の利用が苦痛の少ないものであっても、動物たちを自分たちの利益のための利用の対象とすることは、動物たちの権利の侵害であり、許されるものではないと考えられます。そのため、福祉主義の考えとも基本的な部分では調和しません。そして、ゲイリー・フランシオンらは、福祉主義に対して実際に批判的な主張を展開しています。以下の動画でフランシオンの考えの簡単な説明がされています(日本語字幕が選択可能)。
しかし、ここに見逃してはいけない大きな誤解があります。新福祉主義者たちは「そうはいっても動物たちを今すぐ解放するのは非現実的だし、そうやって柔軟性に欠ける態度をとっていても、動物たち自身のためにならないよ」と言って廃止論に否定的な反応を示しがちなのですが、廃止論者が主張しているのは、自分たちの信念を貫こうということではなく、現実に福祉運動は動物たち自身のためにもならない、ということなのです。
福祉運動が動物たちのためにならない?
廃止論者の、福祉運動が動物たち自身のためにはならないと考えるのは、以下のような理由からです。一つは、「福祉に配慮した製品」というラベルは、消費者の罪悪感をやわらげ、動物の利用を正当化する口実にさせてしまったり、「オーガニック」ラベルのような、中身よりむしろ消費者の気分を向上させるためのブランドのようになってしまうことで、むしろ動物産業の安定的な持続を助けてしまう可能性があるということです。上のフランシオンの動画や、以下に紹介するビデオでも触れられていますが、実際に動物製品の売り上げが向上しているというデータもあるようです。そしてもう一つの理由は、根本的な問題として、福祉の改善は動物たち自身の苦痛を軽減することにつながっていない、ということです。これがどういったことなのかを理解するためには、上で紹介した動画と、以下の動画を視聴してみてください(日本語字幕が選択可能)。
こういった例は一部でしかないし、今後の運動の展開によって状況は改善される、という反論もあります。しかし、福祉運動に反対するまた別の重要な理由は、私たちの費やせる資源には限りがある、ということです。少なくとも多くの人々が考えているよりは、動物たち自身の苦痛の軽減の観点からみても効果が少ない福祉運動に時間や労力やお金を費やすのなら、動物の解放のために、人々にveganになりましょうと訴えるほうが結果的に効率的なのではないか、ということです。
そして、アニマルライツを掲げながらウェルフェアを推進することは、veganでない人々の混乱も招きます。アニマルライツを訴える人々が福祉卵の宣伝をしていたら、アニマルライツ運動とは、動物たちの待遇の改善を求めることなんだという風に受け止める人も少なくないでしょう。
これらが、福祉運動に反対する人々の主な意見です。反対に誤解するべきでないのは、廃止論者たちも「動物たちの苦痛を少しでも少なく」という福祉主義者の気持ち自体を否定しているわけでは決してないということです。
私たちはどう判断するべきなのか
そうはいっても、例えば科学研究の動物実験など、私たちの生活の中の判断で廃止につなげるのは困難で、少しでも状況を改善したいという考えなどももっともだと思いますし、福祉運動もさらにレベルアップすれば、廃止に向けたより効果的な形が見いだせるかもしれません。
2018年になって、ゲイリー・フランシオンの著書の訳書が発売されました。
これを機に、こういった議論が日本でも盛んになり、動物利用の廃止が一刻も早く実現されるよう、効果的な運動が行われていくことを望みます。
その他参考:
アメリカで活動されている廃止論者の方のブログ『ヴィーガンでいこう!』
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